●“販売のトヨタ”は死んだ!
かつて“技術の日産”、“販売のトヨタ”と称されたように、トヨタの強さは販売力にあった。
その礎を築いたのは、私もお世話になったトヨタ自動車販売の諸先輩達と、地域に根ざした地場資本を母体に設立され、創業時よりトヨタと労苦を共にしてきた販売店の人々である。
トヨタ自販は、ユーザーや販売店の声を代弁した商品企画やマーケティングを推進、販売店もまた「腐った林檎でも売るのが販売」との言葉があるように、営業マンやメカニックの増員、店舗の整備など販売力の量的拡充と併せ、地道で粘り強い訪問活動やきめ細かな顧客サポートをなし得る販売力の質的向上に勤しんだ。
“販売のトヨタ”の源泉は、顧客第一主義の旗印の下、自販と販売店とが互いに切磋琢磨しながらメーカー(トヨタ自工)と対峙することによって生まれたエネルギーに他ならない。メーカーがQC(品質改善)活動に打ち込んだと同様、販売の最前線は、CS(顧客満足度)・CR(顧客管理)活動を日々実践していたのである。
週刊東洋経済は、2000.12.2号で「トヨタ 利益一兆円の野望」と題しトヨタ特集を組んでいる。その中の「トヨタの国内店改革〜GAZOO投入で販売店を再生する」との記事中に、千葉トヨペット勝又基夫社長のインタビュー記事が掲載されている。
千葉トヨペットは、創業社長がトヨタの販売店協会理事長職を長らく務めるなど、数多の有力販売店の中でもとりわけ格上の老舗ディーラー。基夫氏は二代目のオーナー社長。
見出しは、「業務改善とガズー使い、販売店は生まれ変わる」。
新車点検作業員の半減や、ガズー上での修理予約など、“メーカー主導”の業務改善を絶賛。
次いで、「アメリカのように、インターネットで販売員を全く介さずに車を買いたい人は日本では多くない。アメリカは販売員がプロだから、価格交渉力の無い客が、オートバイテルやカーポイントを利用している。だが日本ではメーカーの系列を越えて転職するようなプロの販売員はいない。
ただインターネットで見積りを出す人は増えているので、これへの対応は必要。メーカー独自のページならディーラーが見積り手数料を支払う必要もない。ガズーと他メーカーの見積りページを相互リンクさせれば、顧客が自分で比較検討できるようにもなるだろう」と語っている。
唖然とした。ネット市場についての認識錯誤は措くとしても、社長自らが販売店の存在価値を否定するかのような発言をしているではないか!。従業員に対する蔑視・不信すら感じさせる。
確かに、販売店には抜本的に改革・改善すべき点が多々ある。商品知識すら覚束ない営業マンも多い。しかしこれではまるでメーカーにおんぶに抱っこ、自助努力を忘れてしまったと言われても抗弁できまい。
IT革命は、本質的に中抜き(流通分野ではメーカー直売、販売店不要)革命でもある。消費者主権が定着し、唯々諾々とメーカーに従うだけの“メーカーの代理人”に過ぎない販売店は淘汰される。“ユーザーの代理人”として、メーカーに対峙しうる力を磨き備えた新たな販売店のみが生き残る。
販売店の再生は、“販売のトヨタ”の復興でもある。
(2000/12/5 わたなべあさお)
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