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●「静脈ビジネス〜もう一つの自動車産業論」

 先週、日本自動車工業会(自工会)が中心となって「自動車リサイクル促進センター」を設立するとのニュースが発表された。
 環境問題について、我国のメ ーカーは、電気自動車や燃料電池車など新技術や新商品の開発には意欲的に取り組んでいるものの、廃車やリサイクル問題については消極的とも言える態度を取り続けてきた。
 メーカーがようやく重い腰をあげたことは歓迎すべきだが…。

 21世紀の最大テーマは、経済成長と地球環境との共存である。
  大量生産・大量消費経済から脱皮し、新たな「循環型経済」に移行せねばならない。企業も、生産・消費という「動脈」分野のみでなく、そのつけとなって重くのしかかっている廃棄、すなわち「静脈」分野にも配慮した経営をせねば、存続はありえない。
  にもかかわらず、その実態は不透明なままである。

 「静脈ビジネス〜もう一つの自動車産業論」(佐藤正之・村松祐二著、日本評論社 1800円)が6月に発刊された。
 北海学園北見大学で、環境問題、産業論を担当する両教授が、現代文明のシンボル自動車に焦点をあて、現地・現物主義をつぶさに実践することで、日が当らない静脈ビジネスの実態と諸問題をあぶり出した力作である。

 日経エコロジーの書籍レビューから引用しよう。

 我々が使う耐久消費財のなかで、自動車ほど使用後の処理を気に留めずに済むものはないのではないか。下取りという便利なサービスが定着しているため、買い替えの際、今まで使っていたクルマを中古車として他者に転売した方が得なのか、廃車として解体・処分すべきなのかを考える必要がない。

  本書によれば、この構図は実は自動車産業自身にも当てはまっていたようだ。消費者から引き取った使用済みの車は解体業者に持ち込むだけ。その後の解体、破砕、処分、使用可能な中古部品の販売、といった段階にはほとんどかかわってこなかった。その結果、日本では年間の廃車発生量に関する正確な統計すらない。

 本書はこれまで明らかにされてこなかった自動車産業の“静脈ビジネス”を詳説する。実態をつかみにくい解体業者、シュレッダー業者の現状に切り込み、 解体後の部品や素材の流通状況を解説することで、静脈ビジネスが抱える課題を浮き彫りにする。

 本書は造船や家電など他業界の事例や、ドイツで施行された廃車政令を引き合いに出しながら、日本での自動車の新しいリサイクルシステムのあり方を考える。利用者が費用を負担するのが「家電型」、メーカーが引き取り義務を負うのが「ドイツ型」のリサイクルシステムである。著者は、いずれ日本にも後者の「拡大生産者責任」という概念が浸透するだろうと予測する。

 トヨタの環境関連のホームページ「TOYOTA ECO-Project〜あしたのために、 いまやろう」を覗いてみた。

 「地球環境憲章」には下記の行動指針が掲げられ、静脈ビジネスへの参画を謳っている。
 1.いつも環境に配慮して…生産・使用・廃棄の全ての段階でゼロエミッショ
  ンに挑戦
 2.事業活動の仲間は環境づくりの仲間…関係会社との協力
 3.社会の一員として…社会的な取組への積極的な参画

 一方「第3次トヨタ環境取り組みプラン(2001年〜2005年度)」に掲げられる具体的計画は、「燃費の向上」「排出ガスの低減」「クリーンエネルギー車の開発」「リサイクル性の向上」と続き、ようやく17番目に「リサイクルシステムの整備」が登場する。

 静脈分野は一体どうなっているのだろう。環境問題をすら、新たな「動脈ビジネス=生産・消費」拡大のチャンスととらえているのだろうか。
 自ら「循環型社会」への道筋を示し、かつ推進することこそトップ企業としての責務に他ならない、と思うのはマイクルのみではあるまい。

(00/11/8 わたなべあさお)

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