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コラム&レビュー

新車心象風景:DS3クロスバック

 
 こういうのが斬新で素晴らしいデザインというは、たぶんクルマ好きに備わる「定番スイッチ」なんだろうと思う。


 新世代ミニや新しいフィアット500の成功を目の当たりにし、あんなプレミアム商品戦略に乗ってみたいと思うのはふつうの感覚だ。過去の資産を最大限活用したやり方は、伝統のあるメーカーの特権なんである。

 だから、PSAグループが往年の名車であるシトロエンDSの名前を使い、これを独立ブランドとした戦略も理解はできる。ああ、そういう手もあるのか、と。

 ただ、そうしてプレミアム路線を選んだ同ブランドの商品がどうかといえば、少なくともデザインについて僕はかなり懐疑的だ。ところが、自動車媒体ではもっぱらこのデザインこそが好評で、たとえば最新のDS3クロスバックもそうなっているんである。

 「彫刻が動き出す」という現代アートのようなボディ、LEDを駆使し凝った形状のフロントランプ、縦に延びる斬新なデイタイムランニングライト、シャークフィンと呼ばれる特徴的なBピラー、ボディサイドに引かれたL字ライン。媒体では、こうした要素についてお洒落だのアバンギャルドだのと絶賛だ。

 インポーターが推すアイテムをことごとく誉めてくれるのは実にありがたいことだろうけど、僕にはまったくピンと来ない。いや、それぞれ何を言っているのかは理解できるけれど、評価はできないんである。端的に言って、これらはすべて表面上の「飾り」に終始しているからだ。


 
 DS3クロスバックを真横から見れば、まあごくふつうのハッチバックシルエット。つまり基本的なスタイル自体に特徴はなくて、そのボディの上に複雑なランプとか、途中までのピラーとか、あるいは変わったキャラクターラインを描き加えたに過ぎない。

 これはインテリアも同じで、まずごくふつうのインパネがあって、そこに後からひし形のスイッチやエアコン吹き出し口、あるいは螺鈿のような装飾を描き加えただけだ。ここでも基本的な造形そのものに特徴があるわけじゃない。

 一方、ミニやフィアット500の場合、エクステリアではまさにアイコン的な特徴に溢れているし、インテリアも独自の造形で構成されている。たとえば、BMW1シリーズのボディに表面的な装飾を加えて「はい、ミニです」なんてことはしていない。

 にも関わらす、「こんなスタイル見たことない」などとほとんどの媒体で絶賛されるのは、つまりシトロエンやDSというブランドに対し、評論家をはじめとしたクルマ好きはほとんど反射的に肯定ボタンを押してしまうからじゃないか?クルマ好き=ポルシェ好きという公式みたいなものだ。

 逆に言えば、これを否定してしまったら、業界中から「センスないな、お前」なんて笑い者になってしまうような恐怖心や危機感が意識の下に横たわっているのかもしれない。

 付け加えると、僕はDSのゴス・カルチャー方向の趣向からしてすでに疑問だ。過剰気味の装飾はなるほどプレミアム感として分かりやすいけれど、あまりいい趣味とは思えない。まあ、これがフランスの最先端なんだ、と言われてしまえば返す言葉はないけれど。

(19/09/30 すぎもとたかよし)

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