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なかなか難しいんだなあ、と思ったんである。
復刊した「モーターファン」の第2号、金子浩久氏のコラム『ニホンシャのあともうひと押し!』が興味深い。
話は、おそらくメルセデス・ベンツのヤングクラシック・リフレッシュプログラムと思われる例を出し、日本のメーカーも自社のクラシックカーを復元する部門を設けるべきだというもの。旧車イベントが全国で活況であることを受けての提案だ。
同プログラムは、劣化した愛車を持ち込めば、予算に応じてメーカー自身がレストアを行うもので、ドイツ本国に引き続き日本にも導入されている。レストア自体は珍しくないけれど、メーカー基準で行うという点が肝だ。
こうした制度は、自車オーナーを大切にする面と同時に、その姿勢自体がメーカーの評価を上げ、新車販売も含めた経営全般にいい結果をもたらす意図もあるかと。
けれども、金子氏からこの提案を聞いた国産メーカーの開発者が、想像以上に無関心、無理解であったことをこの記事では嘆いている。「1000万、2000万円も出して修復するようなクルマはそもそも売っていない」「そんなことをしたら新車が売れなくなる」といった。
数年前、実は僕も似たような提案を雑誌に書いたことがある。僕の場合は愛車の持ち込みレストアではなく、メーカーが新車同様に復元した中古車を「リフレッシュカー」として販売してはどうかというもの。とくに日常使いに苦のない80年代車以降であれば、新車と同じくらいの価格でも買う人は少なくないだろうと。
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けれども、この提案に対してもメーカーの反応は先と同様「新車販売に影響がある」で、同時に中古車販売への関心がそもそも恐ろしく低く、とにかく新車しか興味がないといった感じだった。
博物館を作ったりオーナーイベントに参加したり、クルマ文化を作り出すような格好はするけれど、この手の話になると意外に関心や理解が足りないことが露呈してしまうんである。
もちろん、欧州のプレミアムメーカーに比べれば、日本車は薄利多売の傾向が強く、あまりのモデルの多さに文化も何もないような気配はある。ただ、そうであっても数十年前の旧車を大切にしているオーナーはいるし、2000万円はともかく、新車価格の150万、200万円ならレストアも十分現実的だとするオーナーも少なくないと思う。
金子氏の提案は、いまならさしずめマツダあたりが手を挙げるか?なんて感じだけど、もちろん車種数はトヨタや日産が圧倒的。「ワオ!」な新車や熱心なグローバル化もいいけれど、自社商品の歴史的価値に自ら光を当てることも忘れちゃいけない。
サラリーマンをやっていると、自分の会社の事業に対しては、かえって外部にこそ熱を持った人がいると思わされることが結構ある。まあ、会社は給料をもらえればいい、決まったことだけやっておこう的な発想は珍しくないし、逆に一生懸命に過ぎて視野が狭くなることもある。
今回の提案は、10年10万キロストーリーを書いた金子氏ならではのものだけど、だから、それを引き受けられるのは現場よりも、むしろトップの方なのかもしれない。トップがクルマ好きかどうか?いや、クルマをどれだけ幅広い視点で見ているかという点で。
(16/07/26 すぎもとたかよし)
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