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いいコンパクトカーの認識が、たぶん最初からズレているんじゃないかと思う。
トヨタの完全小会社化が決定し、ダイハツが小さいクルマの開発を引き受けると聞いたとき、少なくとも僕がイメージしたクルマはこういうものじゃなかった。
玩具的趣味の対象となり得た初代コペン、軽のセルシオを標榜した4代目ムーヴなどの意欲的な軽はもちろん、小型車でもシャレードやアプローズ、YRVなど、ダイハツはなかなかに個性的なクルマを世に送り出してきたんである。
先代までのパッソやbBなどが、トヨタの企画故の残念なクルマだったとすれば、すっかりダイハツの主導となる今回は、だからいい意味でヒネリの利いた面白いコンパクトになると思うじゃないか。
実際、ダイハツの主張は「軽メーカーだからこそできたコンパクト」。これっていろいろな受け取り方ができるけれど、キツキツな制約の軽枠で工夫を重ねたノウハウを持ち込めば、その余裕分を十二分に生かした魅力的な小型車ができると聞こえるわけで。
けれども、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
個性を消したスタイル、加飾パーツが貧しさを感じさせる内装、安易な2グレード構成、車重ギリギリな1リッターNAエンジン。結局ノウハウというのは、単に一回り大きい軽を115万円で作ることができますよ、というものだったらしい。
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どうして、もっと広い視点で企画ができなかったんだろうと思う。多少値は張ってもダイハツなりの「小さな高級車」を狙うとか、初代ヴィッツのようにクラスレスな革新性を打ち出すとか、一方、余裕のある1リッター・ターボをベースエンジンに据えるとか。
先日、デザイナー氏へのインタビューを行ったときに感じたのは、何よりも開発スタッフの真面目さだ。合理性の追求という統一目標に向け、ダイハツの技術を結集する意図にブレはないように見えた。
じゃあ、そうやって真面目に取り組んで、広い室内、クラストップの低燃費、フラットな乗り心地と安い価格を達成すれば優れたクルマになるのかと言えば、しかしそう簡単な話じゃない。
もちろん、軽の技術を生かすのはいいとしても、おかしな延長路線に囚われるのは間違いだと僕は思う。それは、ライバルのスズキが独自の小型車戦略でいい見本となっているじゃないか。
トヨタのラインナップを構成するのは大きな制約と言いたいのかもしれない。ただ、わざわざ別会社が企画・開発をするのは、そこで新鮮な提案をするからこそ意味があるんじゃないのか。そもそも、トヨタだって『ワオ!』なクルマが欲しいんでしょ?
(16/05/29 すぎもとたかよし)
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