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わずか30台という稀少性は、しかしその価値が疑わしい。
オーテックが30周年を記念するクルマを作るという話は結構前からあったし、初のアニバーサリーモデルとして、何やらずいぶん特別なものになりそうな予告っぷりだった。ただ、ベース車の希望を募ると聞いて、いまの日産にそんな特別な素材があったっけ?と。
で、マーチである。
過去3代の実績と評価をすべて放棄すると開き直ったかのように貧相な現行。内外装のデザインも作りも、初めてクルマを作ってみましたという新興国メーカーの商品のような。え、これをベースにするの?
そして、さらに意外だったのは、厳選パーツを手組みするエンジン、トレッドを広げて専用ダンパーを驕った足回り、補強を入れたボディ、レカロと本革ステアリングの内装と、特別の中身がいたって「想定内」だったことなんである。
いや、その抜群の精度の高さや変更箇所の多さは結構な力の入れようだし、ガチガチではなく快適性を重視しようという考え方も面白い。けれども、基本方針は昨今流行のメーカー系カスタムシリーズと同じ発想なわけで、極端な話、ノート・ニスモSとの決定的な違いは何だと。
で、マーチをベースにした今回、僕はボディの大半を架装するくらいのことをしてもよかったと思っている。あのザガートを持ち出すまでもなく、そもそもオーテックはそこに長けた会社だった筈で、よもや現行ボレロでお茶を濁してどうするんだと。
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インテリアもパネルからすべて変更したかった。革巻きステアリングを付けたくらいで、あの残念な内装がどうにかなるものでもないし。内外装のデザインは、もちろん日産本体のデザイン部から募っても、あるいはいっそのこと外注でも面白かったろう。
その上で入魂のエンジン、足回りを施せば本当に特別なクルマになったと思う。それで350万円が500万円になったとしても、付加価値という点では比較にならないし、何しろお客はたったの30人だ。
いや、これが先代マーチだったら部分的なリファインでもよかったかもしれない。SR12がいまでも人気のように、結局ベース車に魅力があれば問題は小さいという実に単純な話なんである。さらにそのリファインが巧ければ、元の魅力も倍増されるという好循環すら期待できる。
日産車がつまらければニスモも退屈だし、オーテックも面白くない。記念するべき特別仕様を、屈指の駄作をベースにするという残念さは如何ともしがたい。そこを開発陣はどう感じているのか?
ま、この手の走り系仕様車はあくまで中身の機構が主役であって、見た目など二の次という風潮が一部のクルマ好きにはある。だから、オーテック的には立派なオーバーフェンダーのこのボディで何が不足?と思っているのかもしれないけれど。
(16/04/04 すぎもとたかよし)
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