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コラム&レビュー

クルマのまわりで:新社長の抱負

 
 新しい社長の会見には若干?なことがあったと思う。

 度重なるリコールやらF1での苦戦など、なかなか荒波な環境の中でバドンを引き継いだ八郷新社長は、株主総会も終わった7月上旬の会見で、今後の商品展開について抱負を語った。

 そこで出たキーワードは「夢」「チャレンジ」「チーム」であり、例として引き出されたのはホンダジェットとS660だったんである。


 ただ、昨秋から新型車が矢継ぎ早に投入されたわりには、どうもパッとしない国内販売に対し、そのキーワードが的を射た回答になっているかというと、どうもそれは違うんじゃないかという話だ。

 いや、ホンダらしさを語るとき、勢い夢だの挑戦だの、あるいはレースやらタイプRなんて話になるわけだけど、少なくとも目前の市販車について考えるのなら、たぶんそういうことじゃないだろうと。

 たとえば初代のシティ、ワンダーシビックや初代CR-X、クイント・インテグラにエアロデッキを加えたアコード、そしてビートなどなど、80年代のある時期にはどれもホンダらしく魅力的なラインナップがあった。

 じゃあ、そこに共通していたのは夢やチャレンジ、あるいはレースやジェットに裏打ちされた目新しい新技術なのかといえば、決してそうじゃなかっただろう。

 
 そうではなく、より美しく、より楽しく、そしてより使いやすくという、もっと純粋かつシンプルな発想であって、それを魅力的にするための優れた感性とセンスとが、いわば両輪として存在していたと思うんである。

 一方、現在のホンダも元気で勢いのあるクルマを目指し、昨年からは「エキサイティングHデザイン」なるフィロソフィを立ち上げた。けれども、そんな掛け声を上げたにもかかわらず、結果としてかつてを思わせるほどの美しさなり新しさを打ち出しているかといえば、決してそうはなっていない。

 量販クラスのグレイス、ジェイド、シャトルなどが、それにしては印象が薄いのは、「ソリッドウイングフェイス」なんて大仰な名前の付いた顔を筆頭に、その新しいデザインが空を切っているからなんじゃないか。そいつはかつてのセンス・感性には遠く及ばなくて。

 社長が持ち出したS660だっていい例だ。スーパーカーの要素をあれこれ盛ったボディは最大瞬間風速的には「カッコいい」けれど、寄せ集めのデザインは見飽きるのも早い。これは、30年近くを経過してもいまだに色あせないビートと決定的に発想力、造形力、センスが違うところだ。

 そこを暢気に「S660がこれからのホンダの象徴」などと言っているのが実に気になる。

 え、感性だセンスだなんて、そんな曖昧で頼りないことでいいの?と思うかもしれないけど、新しい技術や発想をどう使ってどうまとめるかも、結局はそこが肝になると僕は思うんである。

(15/08/09 すぎもとたかよし)

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