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雑誌「ドライバー」の日産特集が、ちょっと惜しい感じだ。
「復権への狼煙」と題した今回の記事は、昨今の日産車がどうも日本市場にはピンとこない、欲しいクルマがない。大丈夫なのか日産は、というなかなか面白そうなテーマ。
まずは、昔はよかったとして80〜90年代の輝かしいラインナップを紹介。初代マーチやプレイリーなど80年代前半もよかったけど、初代プリメーラやS13シルビア、R32スカイラインにZ32フェアレディあたりは最高だったね、と懐かしく振り返る。
一方、現行のデイズ、ティアナ、エクストレイル、スカイラインに改めて試乗。何やら中途半端にほめているのは苦しいところだけど、それでも「いいんだけど、つまらない」と結論しているところもそれなり。
加えて、いくらメーカーを叩いても差し支えない?読者の否定的意見を集めて紹介し、いかにもな雰囲気を作り出すのは常套手段なところ。
まあ、そもそものとっかかりが、なぜか妙に大きく取り上げられる2リッターターボ搭載の新スカイラインの紹介にあったにせよ、それでも趣旨が伝わるだけの疑問提示にはなっていると。
ただ、惜しいのは「未来への提言」とする今後の展望部分なんである。これがいかんせん物足りなかった。
たとえばマーチニスモが持つニッチな可能性という提言は、やっぱりベース車の残念さを考えれば相当に無理がある。東京モーターショーで評判だったIDxが突破口という案も、あの1台でラインナップがどうなるって話じゃないわけで、提言としてはなかなか苦しい。
比較的コンパクトなインフィニティQ30が期待というのも、そういう市場が日本にないのはレクサスCTあたりでよくわかっている筈だし、リーフやNV200の電気自動車の可能性に至っては、さらに絶賛苦戦中なんである。
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つまり、結局は現行車種を取り上げて未来への可能性を示すという発想は、そもそもが企画趣旨から外れているわけだし、いくら未来への「種まき」と言われても説得力がない。
で、この手の日産話では、基本カルロス・ゴーン氏へのダメ出しが主流で、だからこそ今回も80年代がよかったなんてことになるんだけど、それはちっと違うかなと僕は思っている。
いまにつながる、あるいは今後の日産車のあり方を考えるなら、V字回復期に出した商品群こそにヒントがあるんじゃないか?すなわち、先代のマーチやキューブ、ティーダ、シルフィ、ティアナ、フェアレディZ、ムラーノという良品たちに。
お金がない時代故、新技術こそあまり見られなかったけれど、その新鮮な商品企画と練り込まれたデザインは非常に輝いていた。それは例の80〜90年代のきらめきとも違う、新しい日産の提案が詰まっていたんである。
つまり、つい一世代前まで日産車は十分大きな可能性を見せていたわけで、そんなに昔を振り返るまでもないと。さみしい懐でも知恵と工夫でいいクルマは作れるし、日本で評判を取れるクルマは海外でもウケる。もちろん、いまならそこに新しい技術を投入する余裕だってある。
少なくとも、日本市場から見れば日産はグローバル化にありがちな落とし穴にどっぶりハマっている。世界で戦うんだから英語が必須だし、生産も海外メインという定説にあまりにも安易に乗ってしまったように思える。
本当は日本語しか話せなくても、まじめな商品を作れば世界で通用する。それは変にスポーティであったりノスタルジックであったり、あるいは高級であったりする必要もない。肝心なのは優れたセンスとメーカーとしての良心なのでは?などと思ったりする。
今回の特集ではせっかく面白いテーマを選んだんだから、まとめも現行車種に逃げるような中途半端なことはしないで、もう少しトータルなクルマ作りの視点、姿勢を提言すればよかったと思うんである。
(14/05/29 すぎもとたかよし)
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