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座間の記念庫自体は知っていましたが、実際に見学したのは初めてです。
記念庫の見学では、解説ビデオを使って、まずは座間事業所の説明が行われます。実は知らなかったのですが、いま座間は日産の試作車工場として、各種技術の開発拠点になっていたんですね。リーフのバッテリー開発もこことは意外でした。
さて、この手の報告はふつう「まず初代ダットサンから」・・・なんてところですが、80年代のネオ・ヒストリックに乗っている自分としては、そういう自分の趣味だけに浸かって見学。感想もそんな内容です。
まずはブルーバード。全車種をコレクションしてあるわけじゃないのに、910が3台も展示してあったのは大ヒット故でしょうか。たしかにスクエアなボディは適度な新しさを持っていて、当時幅広い層に受けたのも頷けます。短いホイールベースが時代な感じでしょうか。
ただ、僕は次期型のU11の方がピンと来たりします。先代のあまりのヒットに基本プロポーションを引きずり、もう全然FFっぽくないですが、わずか一代の違いにしてはデザインの進化度が極めて大きいんですよね。完全に世代が違う。シンプルなグリルやシャープなサイドラインを持つボディには独自の質感もありました。
本当はイエローのボディがいちばん似合うと思っていたのですが、展示はブラックボディでした。ただ、グリルのバッチにあるように、これは50周年記念というレア車ですね。
C31のローレルは何といってもそのヨーロピアンなスタイルが印象的でした。当時はまだ徹底したアメリカ指向が多かった中、若干はその雰囲気を引っ張りつつも、絞りの効いたボディは日産デザインの先進性が出ています。
そういう先進的なポテンシャルを持っていながら、80年代以降デザインで迷走してしまう日産ですが、その代表が隣のC32ローレルですね。一部で”棺桶”などと呼ばれていましたが、どうしても直線基調が売れるんだという過去の呪縛に囚われていた時期です。
同じ直線仲間シリーズとしてはY30のセドリックでしょうか。一体成形バンパーを取り入れたりして、それなりに新しさもあるのに、ここまでペキペキだとちょっと。ライバルのクラウンがスマートな展開をする中で、すっかり置いて行かれる結果を招いてしまいました。
ただ、ローレルとは逆で、後に挽回したのがY31セドリックでしたね。グランツーリスモの設定は走り屋にも大ウケでしたが、張りのあるボディと、当時流行の4ドアHTが上手くマッチングしたのがヒットの要因かと想います。
ま、僕自身は4ドアHTには反対でしたけど、こうやってみるとなぜ多くのユーザーが「いい」と思ったのか、その気持ちくらいは分かります。
ローレル以上の先進性では初代レパードですね。例によってトヨタのソアラに出し抜かれるわけですが、この初代は少なくともデザインの刺激度では上を行っていました。このスペシャルティボディで4ドアがあったのも面白かったし。
いまでは、どうやらピニンファリーナの関与が・・・なんて囁かれているようですが、その真偽はともかく元気のあるデザインでしたね。
さらに全身でヨーロピアンを醸し出していたのがオースターJXです。スタンザFXとは兄弟ですが、よりスポーティでモダンな表現をされていたのがこっちでした。実は僕が本格的に自動車好きになったのがこのクルマを見たのがきっかけだったんです。日本でもこんなに流麗なセダンやハッチバックがあるのか・・・という想いでしたね。
ネジ1本から新設計というふれ込みの割に失敗作となったわけですが、それが理由なのか、なぜかこの展示車には解説パネルがありませんでした。うーん、実に残念な感じです。
FFになったB11サニーも同様の流れですね。パッケージングにも優れたボディはとにかくバランスがいい。80系カローラ、BD型ファミリアとともにどこかジウジアーロの香りがするのは、我が愛車FFジェミニとの共通性も多く感じるからでしょうか?
旧いサニーと言えば名作A型エンジンを積んだB110というのが一般的な話ですが、僕はこのB11こそもっと評価されてもいいサニーだと思います。
最近になって、日産自らジウジアーロの関与を明らかにした初代マーチも抜群のバランスのよさを持っていました。展示車はグリルが初期のマイナーチェンジ後のものですが、実はこの5ドアに僕も乗っていた時期があります。
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当時は同クラスにシャレード、カルタスといったライバルがいましたが、このバランスのいいスタイルで迷わず購入した記憶があります。エンジンも唯一4気筒でしたし。
ただ、B11サニーもそうなのですが、とにかくこの時期の日産はボディの仕上げが酷く、ケチくさい小さなバンパーの下にはボルトが露出したアンダーボディが見えたりして、結構残念な感じでしたね。
スペシャルティなS12シルビア・ガゼールは、当時“肥大化”などと言われ、失敗作の烙印を押されていました。ただ、個人的には失敗というほどおかしなスタイルだとは思わなかったですね。
たしかに、ターボのエアバルジはあまりに大仰ですけど、基本的なデザインは肥大っていうんじゃないかと。まあ、先代が戦闘機的な軽量イメージでしたから、その反動の声だったのかもしれないですね。
初代プレーリーは、発想の新しさに比べて、とにかくスタイルが野暮ったいというのが失敗の理由とされていました。ただ、今回改めて見てみると、基本的にはなかなか面白いプロポーションだと見直したところです。
たしかに華がないのは事実ですが、まったく新しいシティムーバーとしては、あとほんのわずかな仕上げのよさがあれば何とかなったと思います。とくにリアからの眺めは広いグラスエリアがなかなかです。
実はスカイラインについては、R32の引き締まった4ドアセダンボディくらいしかピンと来ないのですが、展示車両の中ではR30の5ドアハッチが懐かしかったですね。
日本では長らく5ドアが根付かなかったと言われていますが、それが日本のユーザーの合理的思考の欠如だけじゃない、ということをこのボディは明らかにしてくれます。
ラングレーはパルサー、リベルタ・ビラと3姉妹車で、リアがスカイライン風の丸型4灯になっていたのが特徴でした。まあ、そんなんで車名を変えるのはどうかと思いますが、昨今のOEM乱発を考えれば当時を笑えないかもしれません。
この3姉妹はイヤー・カーを受賞しましたが、たしかにこのあたり、つまり80年代後半からクルマの作りがそつなくしっかりして来ましたね。まだトラッドサニーのような直線呪縛車もありましたが、作りそのものはやっぱりよくなっていたかと思います。
それと、80年代後半の「元気のいい」時代の象徴のひとつが派生車の存在かと。先のトラッドサニーにRZ-1なんて若干改造車風のクーペがありましたし、その後継にあたる存在としてはアメリカスタジオ生まれのNXクーペがありました。
このNXクーペは、たとえばセラなんかと一緒にトヨタのエンブレムが付いていてもいいようなクルマでしたが、日産ではどうにも“いきなり感”がありました。そういう意味で、売り方もいまひとつチグハグなところがあったのかもしれません。
マーチベースのパイクカーとして有名なBe-1は、今回展示車の程度のよさが印象的でした。というのも、展示車は大半がオリジナルコンディションなのか、結構な程度差があるんですね。その中でBe-1は、もしかしたらイベント用などでレストアをしたのかもしれません。
もともと中古車市場でも程度のいい車両が見られるフィガロは、展示車もそれなりにいい状態でした。いまでも高値安定商品ですけど、昨年から人気刑事ドラマで使われるようになりましたので、さらに値が上がるかも?ですね。
それにしても、20年も経ってからドラマに使ってサマになるようなクルマを持っているというのは、メーカーとしては決して悪いことじゃないですね。
番外編としては、発売に至らなかったあのMID-4でしょうか。最近一緒に仕事をしている前澤義雄氏が手がけたスポーツカーですが、市販されなかったのに、その他のクルマと普通に並べてあったのが面白いところです。
さて、350台の展示は圧巻でしたが、できればそろそろコレクションホールやミュージアムに格上げして欲しいところですね。これだけの台数を置くのは厳しいので、それなりの選別は必要でしょうけど、資料としては十分なものが揃っていますので。
フェアレディZとかスカイラインとか、そういうのが日産の代表・・・というのではない、もっと別の見せ方を期待したいところです。
(13/04/17 すぎもとたかよし)
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