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コラム&レビュー

新車心象風景:スズキ・ワゴンR

 
 軽自動車はいま、こっち方面を向いていていいのか?ってことかと思う。


 新型が1年前倒しでデビューしたという話が本当なら、それは真っただ中の省燃費競争で、いまなら一番がとれるという判断だったのかと。

 ダイハツのイース・テクノロジーに対抗したアルト・エコは、まあ言ってみれば「つなぎ」的なもので、この最新の回生システムこそスズキの本気だとブチ上げられる。この後はマツダがすぐにやって来そうだし、タイミングとしてはとにかくいまなんだ、ということで。

 しかし、どうなんだろう、それは。

 まず、モデルチェンジのテーマとして、その大半が省燃費っていうのはいかがなものかと。プレス・リリースを読むとビックリするけど、回生システムはもちろん、省燃費のためのアイドリングストップ時間延長、省燃費のための各部軽量化、省燃費のためのエンジン・ミッションの低フリクション化、省燃費のための足回り抵抗軽減、省燃費のためのタイヤ等々。いくらいま市場が燃費競争に飲み込まれているからといって、内外装の作りのよさ、走りや安全性の向上など、クルマとして基本部分の新提案がほとんど見当たらないんである。そんなモデルチェンジってちょっと異常なんじゃ?

 もちろん、全面改良にともなって技術的なアップデートは間違いなくあるんだろう。少なくともいちばん新しいスズキのクルマとして、押さえるべきところはおさえていると。Cピラーを中心に骨太感を出したスタイルもそのひとつなのかもしれない。けれども、そうした要素の積み上げ自体が基本テーマになっていない、マーケット的にアピールすらしないっていうのはちょっとねえ。


 
 そして、ここで何度も書いている軽規格の話だ。

 もういまさら細かいことは書かないけれど、そんなに燃費をよくしたいなら排気量を大きくすればいい。発電だの回生だのゴチャゴチャやって、アルトよりリッター1キロよくなったとか言ってないで、800でも900ccにでも。しかも、その燃費基準も相変わらず甘いJC08モードの話だし。

 そういう軽の規格や燃費基準を根本的に見直そうとすることなく、快適性を犠牲にしてまで軽くしたり、走行性まで落として高圧タイヤをつけたり、何かこう、クルマの進化として基本的に間違っているんじゃないのか?

 ノートでも書いたように、コンパクトカーがクオリティを放棄しても燃費だとする一方、軽自動車もまた少ない開発費をそっちに回す。非合理な規格内とはいえ、ある時期までモデルチェンジの度に大幅なクオリティの向上を見てきた軽が、ここに来て一体何をやっているんだろう?

 クルマの白物家電化と言われて久しいけれど、この家電化は「どれも似たようで退屈なクルマ」という意味だったかと思う。ところが、ここに来て本当の意味で家電になってきてしまったみたいだ。だって、リッターあたり何キロばかりが注目されるのは、冷蔵庫やエアコンが省電力達成率何%とカタログに書き立てるのとほとんど同じじゃないか。あらゆるものが「エコ」で商売され、「死んでも節電」と言わんばかりの風潮が、ついにクルマを包囲してしまったように見えて仕方がない。

 ワゴンRは軽のパッケージングを変えたパイオニアだというのに、いまやこういうモデルチェンジになるというのは、それ自体が軽あるいは軽規格の行き詰まりを感じさせる。日本車のガラパゴス化が語られるいま、さらに追い討ちをかけるような自虐行為だ。

 まあ、何でも280馬力、何でも四駆、何でもミニバンなど、基本的にブームで構成されてきた日本市場だから、これもまたそのひとつと言ってしまえばそれまでなんだけど。

(12/09/18 すぎもとたかよし)

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