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コラム&レビュー

クルマのまわりで:トヨタデザインが変わる?

 
 「トヨタは今後デザインを最優先する」という内容のニュースが少し前にあった。

 そう聞くと、まるでいままでデザインのことなんていちばんの後回しになっていたように聞こえるけれど、まあそうは思えないんである。

 だとしたら、このニュースは一体何だろう?

 かつて80点主義と言われていたトヨタだけど、たとえば比較的近年の80〜90年代だけを見てみても、シェア2位の日産を大きく引き離した理由の中には、多くのユーザーに「適度な先進感」を与える巧みなデザイン攻勢があったと僕は思っている。


 たとえば当時のターセル・コルサやカローラ、マークII、クラウン、アリストといった王道セダン・ハッチはもとより、初代エスティマやイプサム、セラ、MR2といった変化球まで、実にまとまりのいいスタイリングを得て、内外装とも残念な企画を連発する当時のライバルを蹴落としたと。

 ただし、そのデザインに関してことさら特別なアピールはしていなかったし、「あれこれ」理屈をこね回すこともなかった。もしかしたら、それが80点主義と言われてしまう理由のひとつになっていたかもしれない、と思えるくらいに。

 おかしくなったのは、その理屈を正面切って口にするようになってからだ。ここでも何度か書いているとおり、トヨタ・ブランドなら「バイ・ブラント・クラリティ」、レクサスなら「L-フィネス」などと、なんだか高尚なネーミングを掲げてからは、とくに迷宮の世界が深まった。


 
 つまり、これからトヨタはデザインに力を入れます、と宣言してからおかしくなったんである。それは単に力を入れる方向を間違えただけとも言えるんだけど、とにかく理屈先行の造形を総動員したら、トヨタ車がみな妙チクリンな格好になってしまったと。

 ま、それはきっとトヨタ自身がいちばんわかっていたんだと思う。けれども「新しいデザイン言語は失敗でした」とは言えないので、いまさらながら「デザインを最優先します」なんてことを改めて言い出した感じだろう。ここ数年のことはなかったことにしたいなんて。

 一部雑誌で書かれているとおり、トヨタは先述の初代エスティマをまとめたデザイナーを子会社からトップに迎えたそうで、ほぼ同時に組織も変えることになったらしい。僕はその方がひとりであの初代を描き上げたかどうかを知らないので、その実力も知り得ないんだけど、わざわざ別会社から呼び戻したんだから、きっと相応の力はあるんだと思う。その本来の実力が商品として結実するのには数年かかるのだろうけど、とりあえず日本のトップメーカーとして是非頑張ってほしいとも。

 ただし、それにはまず妙に構えたおかしなデザイン言語を掲げるのは止めた方がいい。マツダ程のラインナップなら「塊動」もいいだろうけど、トヨタ規模では足かせになるだけだ。

 それともうひとつ。先述の車種を含め、ある時期までのトヨタ車の中には、少なからず外部のカロッツェリアに委託をした例があると言われているけれど、そういう柔軟さは今後も持つべきじゃないかと思う。

 そうじゃないと、仮に優秀なチーフを迎えたとしても、遠からず息切れしてしまうのは目に見えているからだ。

(12/04/20 すぎもとたかよし)

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