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帰ってきた「間違いだらけ」を読んで思うのは、とにかく“いま”だったんだな、ということなんである。
共著にしたのは、もしかしたら現行全車種への詳細な試乗が厳しいためなのか、車種別批評はすべて島下氏が担当、そこに巨匠のコメントを加えたのが今回の構成だ。
じゃあ、このまま「間違いだらけ」ごと若手にバトンタッチ?、とも思えないので、やっぱり「いま」この本を復活させることがいちばん重要だったと感じるんである。
思うように進まない被災地支援には、一般のボランティアや民間団体・企業が動く。情報操作される原発事故には危機感を持つ研究者が告発し、警鐘を鳴らす。いまだ政局騒動に明け暮れる政治とメディアには、良識あるジャーナリストが斬り込む。
それぞれの非常時に際して“その時”に必要なこと。それはもちろんクルマ界隈にもあると。かつての「間違いだらけ」の時代から技術や環境、情報などが変わっても、結局根本が変わらないニッポンのクルマ周辺の難点が。
巨匠が一旦筆を置いたのは、初代ゴルフによる明快で大きな“動機”がひと段落したからなのかもしれない。だから、クルマ選びというそっちの方向は期待の若手に任せ、新たな動機をコラムで訴えるやり方だ。
国内市場の冷え込みやHV・EVへの偏向、ディーゼルを含めた内燃機関改良の遅れ、愛着の持てない安物企画、生産の海外移管、近隣新興国の脅威、ジャーナリズムの不在、等々。
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3.11以降、少なくとも日本人はそれ以前と異なる世界で生きて行かなくてはいけなくなったとする識者は少なくない。クルマの世界ではそれ以前から変化が起きていたわけだけど、曲がり角になった3.11も含めて、すでに独自の展開を始めた一部の評論家やジャーナリストもいる。
けれども、社会や環境がどんなに変わろうが、相変わらず幅を利かせているのは御用評論家の仕事や護送船団方式のお約束記事ばかりで、それは、先のような一連の大手マスコミによる震災や政局、あるいは異様な節電報道と基本的に同じなんである。
そこに、出版不況と言えども「間違いだらけ」というブランド力を使ってこの難点に斬り込もうとするのは、だから大いに意義のあることなんだと評価したい。
さて、島下氏による記事だけど、冒頭のコラムはプリウスブランドや軽自動車など、最近の自分の記事とガッツリかぶっていたのが結構驚きだった。ま、それだけ誰でも考えることなんだろうけど。
各車批評は、巨匠のイメージを引き継ぎつつキレイに着地していると思う。けれども、大先輩が敷いたレールへ乗るのであれば、世代交代の分、さらに斬り込みのレベルを上げてほしいとは思う。端的に言って物足りない。
もちろん、メジャー誌でも活躍する氏の“限界”があるのは理解できるんだけど、何たって多くの若手が憧れるであろう「特別席」なんだし。
年末の次年度版以降、今後も毎年続くらしいので、巨匠には新たな動機による鮮度を持ったメッセージを、そして島下氏には期待を越える車評を期待したいと思うんである。
(11/07/06 すぎもとたかよし)
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