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肝は、ヘンな形をどうしたら「いいかも」「新しい」と思わせるところに落とし込めるか、なんだと思う。
これまでだって結構変わったクルマはあった。トヨタのWiLL、マツダのAZ-3に三菱ディンゴ、スズキのツインにスバルの初代アルシオーネとか。こうした異色作があまり売れなかったのは、その「ヘンさ」のまとめ方について議論、あるいは徹底さが不足していたからなんだと僕は思っている。
で、ジュークはその辺をクリアしたんじゃないか。
ヘンなのはブタの鼻ランプやボンネットのコーナーランプだけじゃない。フロントのアンダーバンパーもブタ鼻の繰り返しみたいだし、フロント断面がボヨンと弧を描いていること自体気持ちが悪い。
この手の「変わり種」の場合、えてしてシルエットそのものは意外とオーソドックスだったりするけど、ジュークはZよろしくルーフを後ろ下がりにしているのがヘンで、後席頭上空間を犠牲にしてまでプロポーション崩しにこだわっている。
リアフェンダーは前から見ると凹面から鋭角の頂点を作り、何か神経を逆なでするような不安定さがこれまた気持ち悪いし、またしてもZのようなブーメラン型リアランプは、果たしてボディのどの面にどうやって張り付いているのかすらよくわからない。
けれども、こうしたヘンなパーツであれ、それをどうまとめるかの「方向性」が明快でブレなければ面白い商品になり得るんじゃないか。今回は「まったく新しいジャンルを作りたい」というチーフデザイナーの明快な意図が、ヨーロッパスタジオのキーデザイナーへ確実につながったのかと。
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それは、ヘンな表現でもそこにしっかりこだわりを持つことで、ある種のクオリティが生まれるというもの。バイクがモチーフというセンターコンソールやそれに沿ったダッシュボード、ドア・アームレストなんかも含めてね。
あと、ジュークはコンパクトカーというのもよかった。あれやこれやいろいろな要素が4m少々の小さいボディに凝縮されることで、間延びがなく破綻を避けられたんじゃないかな。実際、濃色ボディをナナメ前後から見ると想像以上に引き締まって見えるし。そうそう、例のブタ鼻ランプ類は、立った目線から見下ろすとほとんど違和感がないのもあるし。
そして、コンパクト故のお手頃な価格も。こんな冒険的なクルマが妙にデカくて300万円もしたらちょっと尻込みするけど、キューブ同等の1.5リッターで160万円台からなら「面白いかも」になるんじゃ? これは、トヨタがFT-86とかG'なんていう旧態依然な価値観で「若者奪還」に躍起になっている一方、特段若者意識をしていない分実に健康的で効果的な提案にも見えるのがまた面白い。
そういう、造形上のこだわりとボディサイズ、排気量や価格について徹底的に追い込み、ひとつのパッケージとして巧い商品企画になっていることだろうと思う。もちろん、コンパクトSUVとして市場は欧州がメインだろうから彼の地での自己主張も意識しているんだろうけど、まあ日本車としてはかなり珍しいアプローチかもしれない。
だた、僕は買わない。商品企画として面白い提案ではあっても、じゃあジュークのデザインは完成度が高いのか? というとそうは思わないからだ。パイクカー的な意味では語り継がれるかもしれないけど、少なくとも時間的な耐久性のあるデザインとは思えないからね。
けれども、そういう次元じゃないところで成立する商品企画もあり得るということなんである。
(10/06/22 すぎもとたかよし)
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