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「軽が井の中の蛙じゃいかんぜヨ」、という香取君のTVCMは、自虐的なシャレとしてはかなり秀逸かもしれない。
前に書いたアルトは、ベーシックと上級の両端が同じ中身でどうなのよ? としたけれど、今度はほとんど同じクルマの住み分けという話だから、あのSAIとHSに近い話かもしれない。
まずタントのサブネームについては、背高ボディもあるけれど、ぶっちゃけヒット作の名前を拝借したかったという理由はバレバレな感じ。ただ、それにしたってタント最大の売りであるピラーレスのスライドドアを持たないエグゼが名乗るのはいかがなものか、と思う。気持ちは重々分かるけど、ちょっと節操ないかも。
で、本題はエグゼのコンセプトである「上質な大人」なんである。
たとえば、その上質な大人に向けた「グラマラス」なんてすごい名前のシート。たしかに、折ったり畳んだりが必須の元タントよりはイスっぽいけど、じゃあそれが上質とか大人とかそういうレベルかと言えば全然そんなことない。ごくフツーのシート形状だし、生地だってまあコンパクトカーと同じようなものだ。
何だかカラオケルームみたいな青白い照明もどうなんだと思う。上質な大人って皆さんこういう趣味してるのかな? 僕にはひどく悪趣味で安っぽくしか見えないんだけども。
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スタイリングもそう。水平基調が実に明快な元タントに比べて、何とも曖昧なフロントフェイスや、意味不明の唐突なキャラクターラインを施したエグゼがどうして“大人”なのかサッパリ分からない。
ましてや、上質な大人ってああいうカスタムするかな? パープルとかのボディで。
で、そんな高級な作りでさぞお値段も“上質”と思いきや、何とこれ、元タントより若干お安いんだよね。まあ考えてみればピラーレス・スライドドアなんて凝った仕組みを持ってないわけだから、相当なコスト削減になってるんでしょう。
そこに上質なシートだ遮音材だって加えても元タントより安い。結局、贅を尽くしたようなことを言っても、所詮はその程度のものしか使ってないと。
似たような姿、ほとんど同じ価格帯、もちろん中身も一緒。つまり絵に描いたような「井の中の蛙」な企画なわけで、そこにあのCMは冗談キツイよなあと。
コンセプトの中にある「合理的でシンプル」ということなら、図抜けてスタイリッシュなムーヴの方がよほど合致していると僕は思うし、フランス人デザイナーによるシートが自慢のコンテの立場は?とか、そっち方向の問題もどうなんだろう?
(10/01/11 すぎもとたかよし)
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