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コラム&レビュー

新車心象風景:トヨタ・クラウンマジェスタ

 
 好き嫌いはともかく、ゼロ・クラウンはエクステリアのまとまりがよかっただけに、現行のロイヤルシリーズのデザイナーは相当苦労したと思う。

 結局はバイブラント・クラリティ特有の表層的なラインを多用した“よく分からない”造形になってしまったんだけど、それでもメルセデスのSや一連のマツダ車が採り入れたフロントホイールのフレアからキャラクターラインをリアまで流す、なんて流行にチャレンジはしている。

 ところが、威風堂々なマジェスタではそんな試行はできなかったのか、とにかくこの新型には基本的な部分で特徴らしいものが何ひとつないんである。


 やっているのは例の表層小細工で、たとえばボンネット内側の縦のライン、ホイールアーチ、リアバンパー上面のラインなどは、どれもラインの端に向かうにつれ次第に薄くなって途中で消えてしまう。もちろん意図的なものなんだろうけど、その意味が分からない。

 先代はロイヤルと同種の明快なショルダーラインがフロントからリアまで貫かれ、それがボディ全体の流れになっていた。前後のランプもラインの“段”を受ける形になっていたし、ボンネットの大きな溝もフロントランプ上辺に合わせたものだった。つまり、何をやりたかったのかが明確なんである。

 ところが、新型はそういう薄皮のような線が出ては消えたりしているんだけど、意図が読めない。もしかしたら、ある種の繊細美を狙っているのかもしれないけど、残念ながらそれは完成していないとしか思えないし。


 
 それと、前後ランプの周囲は繰り返しのウネったボディパネルで囲まれているんだけど、これまた意図が不明。フロントランプ下端のフェンダーとバンパーが交差している場所などは、よーく見るとフェンダー先端が微妙に丸くしてあったりするんだけど、そこまでする意味自体がサッパリ分からない。そういうウネりに囲まれたフロントランプの形は当然不安定だし、偶然こういう形になっちゃいましたって感じだ。そもそも、この繰り返しってレクサスの技法なんじゃなかったっけ?

 で、結局それ以外には何の提案もないので、ボディはマグロのようにボテっとして緊張感がまったくない。デザインコンセプトには“堂々とした佇まいと躍動感”とあるけれど、堂々というのは単にボディがヌボーと大きいだけだし、躍動感がウネったパネルワークだとしたら中途半端以外の何ものでもない。

 BMWを去ったクリス・バングルはシリーズ全車のスタイルを一変させ、販売面では成績を残したものの、世界中に賛否両論を起こした。彼の仕事は表面だけの小手先に過ぎない、という意見もそのひとつだけど、それはどっちにしても主張が明確だからこその意見だろう。けれども、大上段に構えてフィロソフィをブチ上げたトヨタ車については、大多数のユーザーが全社的な変化にすら気がついていないんじゃないか。

 マツダなんかZOOM−ZOOMなんてフザけたコピーでやってるけど、出来上がった商品は明快なテーマがあって世界的にも評価を得ている。一方、トヨタは比較にならない程巨大なのに、いや、もしかしたら巨大だからこそなのか、変に理屈が先行したマニュアルを作ってしまい、自らその呪縛に右往左往してしまっている。

 レクサスのL-フィネスにしたって、ハリアーがあんなことになってしまってどうすんのよ、って感じだ。ここはトヨタブランドだけでも一昔前に戻って、色々自由にやった方がいいんじゃないだろうか。

(09/04/12 すぎもとたかよし)

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