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■はじめに
いすゞのクルマがいよいよ僕等の前から消えるみたいだ。
いすゞの経営的危機は、もうずっと前から聞いていたことだけど、ここに来てビッグホーーンなどのRVは国内生産中止、かつ、いすゞブランドでの販売も中止、スクエア店のGM系列店への吸収、OEM車(アスカ)の供給停止、中国合併会社からのトラック逆輸入等々、もう大変なリストラ策が打ち出されたんである。
時代の流れ、と言ってしまえば話はそれまでだけど、117クーペ、ベレット、ピアッツァ、ジェミニと、多くの名車を生み出してきたメーカーが、本当に乗用車から手を引いてしまうのは、あまりに悲しい話じゃないか。
■モーターショウ
じゃあ、いすゞには何か打つべき手はあったのか?
いまさらあれこれ書いてみても仕方がないのだけど、僕は東京モーターショウがそのいい機会だったのではないかと思っている。
いすゞのここ数年のモーターショウといえば、例の「近未来SUVの提案」と相場が決まっていた。それは前々回のビークロスからはじまるわけだけど、僕はこの斬新な大型クロカンの、あまりの評判ぶりが後々コトをここまで追い込んだのではないかと思っているんである。
なぜって、4年前のその時点で既に大型クロカンの需要はほとんどなくなりかけていて、世の中は乗用車ベースのミニバンへと目を向けていたじゃないか。いくらビークロスが飛び抜けてカッコ良くても、クロカン自体の「旬」が過ぎてしまっていてはどうにもならないわけで、そういう意味では、自分が買うでもなく、無責任に市販化へのラブコールを贈った一部の評論家達の罪は随分大きい筈だろう。けれどもいすゞは、それでもこのパターンを変えずに前回、そして今回までも近未来SUVの提案を続けてしまった。
で、僕が言いたいのは、ビッグホーンの、つまり既存のプラットホームに全く新しいボディを載せて売るような「予算」があるのなら、どうしてもっと「売れるクルマ」を提案してこなかったのか、ということなんである。
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■力の使い方
具体的に言ってしまえば、日産のマーチやトヨタ・ヴィッツ、そして只今大ブレイク中のホンダ・フィットに代表されるコンパクトハッチ。そしてトヨタ・スパシオ、ホンダ・ストリームなどのコンパクト?ミニバンなどだ。
そんなプラットホームなんかどこにあるのか? ある。オペルのヴィータやアストラだ。同じGMグループとして、既にいすゞは自製のディーゼルエンジンをアストラ用に供給しているという間柄なんである。モーターショウ用にエンジンも含めたシャシーを拝借するくらい決して区不可能なコトじゃないだろう。
で、そこにこそ伝統のずば抜けたセンスでもって、もう見たこともないような斬新かつモダンなボディを載せるのである。それこそヴィッツが逃げ出し、スパシオがオモチャに見えるような最高のエクステリアと、合理的パッケージを提案するのだ。これで反響が大きければGMにお伺いを立てた上で市販化を検討すればいい。何しろ実際にブレイクしているカテゴリーなわけだから、その可能性は決して低いものじゃないと思う。少なくともクロカンを展示するよりもはるかに現実的じゃないか。万一反応が芳しくなければ、一台のショウカーとして終わればいいだけの話だ。
僕は個人的に前々回から、遅くとも前回のショウからこういったことを試して欲しかったと思う。そういうクルマを是非とも見てみたかった。
まあ、そんな話はいまとなっては夢の夢。いすゞの乗用車年への出展は今回でお終いだそうな。ヒルマン・ミンクスから考えれば、いすゞは乗用車メーカーとして思っている以上に歴史と伝統のあるメーカーだ。日産のように外国資本を受け入れて復活を目指す会社もあれば、傘下に入ることによっていいように翻弄され、会社存亡の危機に陥る会社も一方にはある。
弱肉強食は市場経済の常だけど、こうなってしまった以上、いすゞには世界一の技術と生産量を誇るディーゼルエンジンメーカーになって欲しい。いすゞは現在ハイブリット用のセラミックディーゼルや複数噴射の次世代ディーゼルを開発中だと聞いたことがあるけれど、残念ながら今回の東京モータショウではその一端すら見ることができなかった。売る見込みのないSUVなどを飾っている暇があるなら、もっと他にやることはあるだろう。
一方ダイハツなどは、そのハイブリットを想定した660tの超小型ディーゼルエンジンを参考出品していたのを皆さんはご存知だろうか。つまり、いまやどのメーカーも新世代ディーゼルを開発する意志や力を持ちつつあるということだ。もしいすゞが、お家芸であるこの分野でも遅れをとってしまっては、もはや残るものは何もなくなってしまうじゃないか。
(01/12/20 すぎもとたかよし)
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